2012年12月15日
★オバーヤー(オバーの家)

僕の働く施設に100歳になる
Sさんという女性がいる
最近 具合がよくなくて
食事もあまりとれなくなってきた
昼休みに気になってSさんの居室を訪れた
部屋には ラジオの音が小さく流れていた
レースのカーテン越しに
暖かな日の光が差し込んで
時間がゆっくりと流れているようだった
ベッドで寝ているSさんを
居室にある籐の椅子に腰かけ
眺めていたら僕はウトウト寝てしまった
しばらくして部屋を訪れたスタッフが
「なんだ ニヌファさんじゃないですか
びっくりしたなー家族の方が
来てるのかと思いましたよ」と言った
僕は「ごめんごめん」と笑いながら
ふと子供の頃のオバーの家を思いだした
よくある沖縄の赤瓦の家ではなかったが
台風の為にコンクリートの丈夫な家だった
この辺で見かける家とは違い
家の入口にブロックの曲線を利用した
幾何学模様のような戸袋と
風を通すための多くの窓があった
家の周りを囲むように庭があり
オバーが味噌を作ったりする小屋があった
急な斜面に沢山の家々が立ち
斜面の頂上にオバーの家があった
そこから家々や港や隣の島が見えた
やることもなく暇なときはオバーの家に行った
テーブルに丸いお菓子入れがあって
中身は黒糖やちんすこう 氷砂糖
あんこ入りの饅頭などがあった
全部一緒に入れてあるので
互いの匂いが染みついて
訳のわからない味になっていた
壁にはウミガメのはく製が飾ってあって
床の間に飾られた洋酒のウイスキーや
泡盛のビンに並んで三線が置いてあった
居間には家庭円満と書かれた
額縁がひもで吊るしてあり
その近くに平気で1時間は遅れる
ボンボン時計があった
ネジを巻かないと止まってしまうので
よく止まっていたが誰も気にもしなかった
壁に古いスピーカーのような形の
ラジオが取り付けてあって
そこから沖縄民謡がいつも流れていた
一分が一時間に感じられるほど
いや 時間さえも止まっているように感じられた
ただ琉球民謡とお線香の匂いと
少し潮の香りのする
そよ風だけが通り抜けていく
子供だった僕はオバーの家に行くと
その雰囲気にやられ
ついつい昼寝をしてしまった
プラスチック製の籐の枕もあったが
枕が高すぎるうえに籐を模して作ってあるので
その編みこんだ部分に髪の毛が
よく挟まって痛い思いをしたものだ
畳の上で寝てしまった時は
ほっぺたによく畳のあとがついた
僕の一番のお気に入りの昼寝の場所は
オバーの部屋の窓を開けると
そこに畳三畳ほどのウッドデッキのような
まあウッドデッキなんてかっこいいものではないが
とにかく木でできたベランダのようなものがあって
そこにゴザがひいてあった
井草でできたものでなくプラスチック製のやつだ
そこでの昼寝は最高だった
日陰で涼しい風も吹いてくるのだが
何よりも斜面に立つ家々や港や海を
一望できるその景色は素晴らしかった
よくオバーと一緒にその景色を眺めた
二人言葉少なになっていた
夕暮れの景色もまた最高だった
家々に明かりがポツポツと灯りはじめ
空と海がオレンジ色に染まっていく
シュッと音がしてオバーがマッチをすると
蚊取り線香に火を点け僕のそばに置くと
まだ火がついているマッチでタバコに火を付けた
夕暮れの景色に蚊取り線香の煙が溶けて行った
「夕ご飯 食べていきなさいねー」と
オバーがボソッと言った
僕が横浜に出てきた頃に
オバーの家は建て替えて
二階建ての家になったのだが
今でも昔のオバーの家を懐かしく思う
あの家の時計やラジオやお菓子入れ
そしてオバーと一緒に眺めた
あの夕暮れの風景を
Posted by ★ニヌファ at 12:01│Comments(0)
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