★迎え
仕事を終え帰る途中
夕暮れのせまる十字路で
信号待ちをしていた
今日は少し嫌な一日だった
長く道路まで伸びた自分の影を
ぼんやり眺めていると
向かいの道路から声が聞こえた
「パパーッ!」4歳になる娘が
大声で手を振っている
嫁と一緒に迎えに来た娘の姿を見た時
何とも言えない幸せな気持ちになる
7月18日は亡くなった愛犬ニヌファの
6歳の誕生日だった
娘にロウソクを吹き消してもらった
娘が「パパ おにいちゃんの話をして」と
ニヌファの話を聞きたがった
ニヌファの面白い話や
娘の面倒を見てくれた話をした
それから何度も同じ話を
聞きたがるようになった
夜 部屋の明かりを消したとき
娘がニヌファの話をして欲しいと言った
ニヌファが病気になったこと
治療に頑張った事
そしてニヌファが亡くなった事
僕と嫁がとても悲しんだことを告げた
「パパ 泣いたの?」
「・・・いっぱい泣いたよ」
「・・・パパ りみも悲しい
おにいちゃんに会いたい・・・
パパ おにいちゃん 帰ってくるかな?」
「帰ってくるといいね・・・」
僕は少しうわずった声で答えた
しばらくして娘が小さな寝息をたて始めた
僕はなかなか寝付けなかった
娘が赤ん坊の頃
ニヌファは病気がひどくなっていた
赤ん坊の娘がニヌファの毛を引っ張ったり
耳の中や口の中に手を入れたりしても
ニヌファはじっと我慢していた
寝ている娘の足を娘が泣かないように
そっと注意深くニヌファはなめてくれた
そして娘の背中に自分の背中をくっつけて
一緒に寝てくれた
僕が娘を抱いてあやした後
嫁に娘を渡すと横でじっと見ていたニヌファが
突然 僕の胸に飛び込んで甘えてきた
本当は自分が甘えたかったのに
娘の為に我慢してくれていたのだ
病気で辛くて心細かったろうに
本当にかわいそうな事をした
僕は流れる涙を枕で拭いた
僕や嫁が亡くなった時
一番最初に迎えに来てくれるのは
ニヌファに違いないと嫁と話すことがある
あの嬉しそうな笑顔で
美しい毛をなびかせ
左の前足が必ず先に出る
少しどんくさいあの走り方で
きっと迎えに来てくれるだろう
きっと・・・
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