★永遠の花

★ニヌファ

2012年04月10日 09:28

























桜の咲くこの時期


思い出すのはニヌファとよく


散歩に出かけた家のそばの公園だ


桜がとても有名な公園で


お花見の時期にはかなりにぎやかになる


行くかどうか悩んだすえに


ニヌファと桜を見に出かけることにした


花見客で混んでいる中


開いていたベンチを見つけ


僕達はそこに腰かけた


空いていたわりにとてもいい場所で


坂になった場所に咲いている


桜の木々を見下ろせる場所だった


いつものようにニヌファはベンチの


僕の隣に寝転ぶと顔を僕の


太ももの上に乗せ一緒に桜を眺めた


ニヌファの首周りの毛が


風になびいて美しかった


ニヌファは目を細めフゥーッとため息をついた


これは僕も嫁も思っていた事なのだが


彼は時々とてもさみしそうな眼をすることがあった


それはニヌファが子供の頃


始めてブリーダーの家で


僕たちが会った時もそんな目をしていた


自分の命が短いことを知っていたからか


その理由は僕たちには知るすべもない


僕は小説をバッグから取り出すと


ベンチで読み始めた


僕たちが座ったベンチの後ろから


中学生の女の子たちの声が聞こえてきた


「何 あの犬かわいいね!」


「あの犬 なんて種類の犬なの?」


「大きいねー」「腿に顔のっけてるよ!」


彼女たちの声にニヌファが


ベンチの背もたれから顔を出すと


彼女たちの方を見た


カシャカシャと音がして


彼女たちが写メを取り始めた


ニヌファが片方の眉をあげて


困惑した表情を見せた


しばらくして彼女たちは去って行った


ベンチからニヌファが飛び降りると


地面をクンクン嗅ぎながら


僕の方をチラチラ見ていた


小説を読むのを止め


横目でニヌファを見ると


落ちた桜の花びらを食べていた


僕に怒られないように目を盗んで


こっそりと食べていた


「腹こわすぞ!」僕が笑いながらそう言うと


拾い食いをしたのに僕が怒っていないと


知ったニヌファが嬉しそうに尻尾を振った


散歩から帰りブラッシングをすると


ニヌファの体のあちこちから


桜の花びらが出てきた


「お持ち帰りって訳だ」


僕の声も聞こえないのかニヌファは


大きなあくびをすると寝てしまった


ニヌファの毛の中から出てきた


桜の花びらを手に取ると


僕はふーっと息を吹きかけ飛ばした


花びらがひらひらと舞い


寝ているニヌファの背中に落ちた


穏やかな春の日だった事を覚えている


ニヌファが亡くなった後


公園の同じベンチに腰掛け


あの日と同じように桜を見たことがある


もうあの瞬間は二度と帰らないのだと


心のどこかで感じていたことが


ハッキリとした現実として心に突き刺さり


僕はベンチで一人泣いた


同じ桜の木でも毎年咲く花は違うものだ


同じ花は二度と咲かない


その時見た花は二度と見ることはできない


それは僕とニヌファが見たあの桜も同じだ


僕たちが見たあの桜は


あの瞬間しか見ることはできない


だからこそ美しいのかもしれない


僕のこれまでの人生の中で


そしてこの先も


ニヌファと共に見た


あの桜ほど美しい桜に


出会うことはないだろう


その桜の花は僕の胸の中で


ニヌファと共に今も


枯れることなく咲き続けている









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