★リサイクル ロク
「おとうさん なんか面白いもの入ってます?」
僕と嫁は昭和レトロな物にはまっていた
毎週末にこの店に顔を出すのを楽しみにしている
リサイクル ロク(仮名)は
70代のご夫婦が経営している
リサイクルショップと聞いて
みなさんが想像する店とは少し違う
80%は食器で
残りの20パーセントは
訳の分からない物が多く
洗濯機やらテレビやらの電気製品はない
食器は投げ捨ててあるのかと間違えるほど
無茶苦茶に積み重ねてあり
一個何かを手に取るときも
気をつけて取らないと
食器の山が崩れ落ちかねないのだ
古いノリタケやその他有名な食器などが
その山の中にねむっている
まるで宝探しのようなワクワク感もそうだが
とんでもなく安く売ってくれるのもまた魅力だ
そしてもう一つの魅力は
そのご夫婦の気持ちの良さだ
刈り込んだ白髪頭にメガネの
てきぱきとした旦那さんと
会計担当の優しい奥さん
偶然にこの店を見つけてからは
毎週末 ここに来るのが日課になった
店の前には椅子が3脚ほど置いてあり
ご近所の年寄りが
お茶を飲み ロクのお父さんや
お母さんとおしゃべりをしている。
店はアパートの1階にあるのだが
元々は6店舗ほどの店があったそうだ
ブティックや飲み屋などがあったのだが
閉店するたびに店舗を広げ
今では6店舗全部がリサイクル ロクになった
看板もお弁当とかハンバーガーなどと
昔の店の看板がそのまま残っているのだが
そのまま残っているのは看板だけではない
各店舗ごとの仕切りやカウンターも残っていて
そこに食器やら何やらが山のようになっている
しかも2店舗分は詰め込みすぎて中にも入れない
その雑多さこそがロクの魅力でもあるのだが
ある日、ロクに顔を出すと
古い食器棚が置いてあった
ロクのお父さんに声をかけると
いつものように格安で譲ってくれた
「家まで車で届けてもいいんだけど
ガソリン代に500円だけもらっちゃうことになるんだけどさ
ついでに車に乗ってったら?
電車代もバカにならないからさ」と言ってくれた
食器棚を車で運ぶ途中
リサイクル ロクの事を
なんとなく聞いてみた
「昔は 八百屋だったんだよ
リサイクルショップやってる友達がいてよ
そいつに勧められてさ
20年くらい前にさ 始めたんだよ」
何故 ロクという店名なのかと訪ねると
「昔 飼ってた犬の名前だよ
前は 違う名前だったんだけどさ
そいつを飼ってから そいつの名前にしたんだよ
雑種の犬でよ どっかに捨てられてたんだってさ
8月に俺んとこ来たとき二ヶ月位だったからよ
6月に生まれたんだなって分かったわけ
そんでロクって名前にしたんだよ
喧嘩っ早やくてよ でも利口だったんだよ
そいつが死ぬ時によ
お前以外の犬は飼わないからなって
約束しちゃったんだよな
だから 今も犬は大好きだけど飼わないんだよ
あいつが 亡くなった時
ずいぶん 辛い思いをしたんだよ。
福島の地震があったろ?
あん時よ 飼い主がいなくなっちまった
犬をテレビで見てよ
俺 そこに行って犬引き取ろうって思ったんだよ
けどよ ロクに約束しちまったからよ
お前以外の犬はもう飼わないってよ
だから 犬大好きだけど 飼えないんだよ」
ハンドルを握りながら
笑顔でお父さんが そう話してくれた
5月の少し暖かく強い風が
車の窓から吹き込んで
僕の髪を乱暴にかき上げていった
「俺 車を運転するとさ
少し荒っぽくなっちゃうけど勘弁してくれよ
チャッチャとしたくなっちゃうんだよ
元八百屋だからよ」
そう言って ロクのお父さんが
アクセルを踏み込んだ。
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