★格子の向こう

★ニヌファ

2013年05月30日 11:08






小学校の低学年のころだ


オバーの家の近くに


とある木造の平屋の家があった


戸が閉め切ってあり


2~3か所ある窓も開いてはいるが


窓に太い木の格子があって


昼なのに家の中は真っ暗だった


精神的におかしくなってしまったオバーを


そのオバーの親戚がそこに閉じ込め


朝昼晩と食事を運んでいるとの噂だった


子供は好奇心が旺盛なものだ


その格子の窓から中を覗き込み


声をかけ逃げ出したり


小石を投げ込む悪ガキも多かった


格子を握って中を覗き込むと


突然、そのオバーに手をがっとつかまれ


怖い思いをしたという話も聞いた


暗いので顔を見た者は誰もいなかった


前々からその家の前は通っていたが


近づいたことはなかった


噂話や誰かの体験談で


お化け屋敷のような印象だったからだ


自分が何年生だったか覚えていないが


多分1~2年生だったと思う


窓の位置が当時の僕には少し高く


窓の下の地面にあった木のでっぱりか何かに


足をのせて覗き込んだ覚えがあるのだ


その日は友人と学校から帰る途中だった


その家の前を通りかかった


友人と二人でその家の格子の窓に近づき


息を殺して中を覗き込んだ


何か音がしたのでびっくりして


そこから友人と逃げ出した


今まで近づくこともできなかったので


なんだか少し大人になったような気がした


それから何度かのぞきに行った


最初の時より長く覗くことが出来た


あいかわらず中は暗くて何も見えなかった


窓の格子の中に手を入れぶらぶらさせながら


中を覗き込んでいると突然


手をがっちりつかまれた


「あっ!」という僕の声に友人は逃げ出してしまった


何とか抜こうとしたが手首をがっちり掴まれていて


手を抜くことが出来なかった


心臓がのどから飛び出だしそうだったが


子供ながらにここは暴れたり泣いたりするのは


あまり良いことではないだろうと思い


静かに相手に握られるままにしていた


暑い夏の昼下がりだった


汗が背中を流れ僕は息を殺した


しばらくすると僕の手首を握りながら


そのオバーが僕の腕をそっと撫でた


何度かなでると握っていた手首を外した


僕はゆっくり手を抜くと窓から離れた


何歩か歩き振り向くと窓の格子を


内側から握っている手が見えた


胸がドキドキしていたのを覚えている


その後僕はその格子の窓に近づく時


なるべく一人で行くことにした


もちろん怖いという気持ちもあった


ただ何人かでワイワイ行くのはよくないと


漠然とそう思ったからだ


怖い気持ちもあったため格子に手を入れ


中を覗き込む時は「オバー来たよー」と


声をかけるようにした


手首を握り腕をさすられる事も何度かあったし


声をかけたが窓のそばに来ないこともあった


僕のオバーの家に行った時


お祝いのお菓子をオバーがくれたので


家に帰る途中 その格子の窓の家によると


窓の中にむかって「オバーお菓子を置いていこうねー」と


僕は声をかけ窓の中にお菓子を何個か入れて帰った


それから何日かして僕はそこに行った


格子を握り「オバーいるねー?」と暗い家の中に声をかけた


しばらくするとそのオバーの手が僕の手をにぎり


何度かさすると何かを僕の手に握らせた


格子からゆっくり手を抜くと


僕の手にみかんが一個のっかっていた


突然の事で僕はびっくりしたが


「オバーありがとう」と暗い窓の中に声をかけ


僕はみかんをにぎり帰った


とても嬉しかったので帰ると


その話を二番目の姉に話した


それからしばらくして姉と二人で


格子の窓の家にお菓子をみやげに持って行った


すると家の窓や入口が全部開いていて


家の外に荷物らしきものが置いてあった


僕は初めてその家の中を見た


閉め切ってあった時とは違い


明るく風通しのいい


板間と畳のある沖縄の古い家だった


荷物を片付けていた人が


その家のオバーが亡くなった事を教えてくれた


僕はそのオバーの顔を知らない


その家の中で一人ぼっちで


どんな暮らしをしていたのかも


暗い家の中で格子の窓から


どんな思いで外を眺めていたのかも


僕が知っているのは


腕を優しくなでてもらった事と


みかんを一個もらった事だけだ









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