★Island Fever
僕と嫁はハワイが好きで
結婚する前からハワイに何度も出かけた
慣れてくると海側の高いホテルでなく
山側の景色が見えるホテルに宿泊するようになった
ホテルのレベル的に変わらなくとも
海側はやはり高く設定されているものだ
山側の景色も美しいが値段が格段と安くなる
一日中ベランダで海を眺て過ごすなら
海が見えるホテルがいいだろうが
僕も嫁も海に直接いくので
海が見える部屋の必要はなかったのだ
ホテルを朝出るときに
フロントのジェシカに声をかけた
彼女は韓国系の女性で25歳くらいだろうか
最初の印象はあまり良くなかった
無愛想でかったるそうな対応だった
宿泊中何度か話をするようになると
明るく声をかけてくれるようになった
大きなホテルと違って長期滞在者が多い
こじんまりとしたホテルで
フロントも小さく基本的に一人だった
ジェシカのほかにも50代くらいの
白人の男性や50~60代の女性も
フロントに立っていた
サーフパンツ姿にはだしで
ビーチから戻ってきた僕たちに
「Wow!すごく焼けたね」と声をかけた
「ジェシカは色白いね」と僕が言うと
日焼けはしないのだと答えた
「ヨコハマはBigCityでしょう?
私もニューヨークかトウキョウに行きたい
友達がトウキョウにいる
トウキョウはBigCityでも
Very Safe Right?
Maybe トウキョウ行くよ
トウキョウは寒い?」
「ハワイは世界中から旅行に来る人多いのに
ハワイの人は出ていきたいんだ」と嫁が言うと
「ハワイはアイランドでしょう とても小さいネ」
とジェシカがウンザリ顔で答えた
大きな都会に出て自分の可能性を試したいと
彼女は目を輝かせながらそう言った
アイランドフィーバーという言葉がある
ずっと島にいると飽きてしまい
どこか行きたい 刺激を求めたくて
飛び出したくて我慢できなくなる事らしい
沖縄の島に育った僕にも経験がある
ちっぽけで 退屈な島を
飛び出したくなるのだ
ただ僕の生まれた島はハワイのように
世界的な観光地ではなくただの島だったが
あれほどの観光地でも
やはり島は島なのだろうか
「ドーナツ食べる?」
フロントの下からジェシカがおもむろに
ドーナツを取り出すと僕たちにすすめた
「Dietしてるヨ」と笑いながら言った
部屋でシャワーを浴びて服を着替え
フロントの前を僕たちが通ると
ジェシカが退屈そうにフロントで
ファッション雑誌をめくっていた
出かける僕たちに「Enjoy!」と
声をかけ手をふってくれた
僕たちは観光で楽しんでいるが
ハワイに生まれた彼女には
この日常が退屈でたまらないものなのだろう
沖縄だとみんな外に出たがるが
結局 島に戻ってくる者が多い
文化的な違いと言うか
他人との関係性やスピード
そして生活が自分達のリズムではないからだ
ハワイも同じような気がする
ハワイの匂いハワイの風や太陽や海
ハワイのリズムが恋しくなって
帰ってきたくなるのではないだろうか
それが何年後か何十年後かは分からないが。
翌年 ハワイに行った時
そのホテルの前を通ると
ホテルの名前が変わっていた
ハワイではホテルが買収や倒産で
違うホテルになってしまう事は多い
外からフロントをのぞくと
見知らぬ女性が立っていた
彼女は僕たちに言っていたように
東京かニューヨークの都会に行ったのだろうか
それともハワイのどこかのホテルのフロントで
退屈な顔で あの時と同じように
ファッション雑誌をめくっているのだろうか
スナップルズを一口飲むと
僕はそのホテルの前を通り過ぎた
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