★偶然のチャンス
嫁は高校を卒業すると
某有名ホテルに就職した
それから当時僕の働いていた
スポーツクラブにフロントでしばらく働き
それからお台場の東京都の
運営する誰もがよく知る
施設で受付として働いた
有名な場所なのでとても忙しく
一人で何百人も対応したそうだ
その後某商社の企業受付をしたが
妊娠をきに仕事を辞め
2年ほど子育てにはげんだ
それから就職活動を行ったのだが
ご存知のように世の中は不況の真っただ中だ
子育てという2年間のブランクや
特にこれといった資格もなく
また嫁の37歳という年齢
何十社も受けたがほぼ門前払い
面接にこぎつけることができたのは
ほんの数社だけだった
その数社でも面接では
嫁の経歴は素晴らしいと言ってくれるものの
年齢を考えれば世間一般では
若い女性を受付に選ぶ会社がほとんどだ
「選んでくれれば 後悔させないんだけどな・・・」
嫁が悔しそうによく言っていた
仕事はまったく決まらず
嫁は失意で何度か泣くこともあった
毎日パソコンで見る求人も
無意味なことのように思えた
そんな中ある派遣会社の担当者が
嫁の事を気に入り
某商社の受付にプッシュしてくれたが
書類選考でその商社の担当者は
嫁を選ばず他の人間を受付に選んだ
嫁はとても落胆したのだが
自分の事をプッシュしてくれた
派遣会社の担当者にお礼のメールを送った
それから2~3日後に派遣会社の担当者から
嫁に電話があり例の商社の受付に
選ばれた人がキャンセルしたので
すぐに面接に来れないかという事だった
いそいで準備をすると
嫁は面接に出かけて行った
結果は 採用したいとの事だった
僕と嫁は手を取り合って喜んだ
何ヶ月も探し続けようやく決まった仕事だ
その商社で一人体制の受付の仕事が始まった
元々嫁は誰もが想像する
静かに会釈して対応する
受付像とはかなりかけ離れていた
受付でニコニコとしていて
やたら元気に受け答えする
受付の仕事以外の事も
気が付けばやるようにした
挨拶もあまりしてくれなかった人たちが
挨拶してくれるようになった
しばらくして商談に訪れる他の会社の人達から
「おたくの受付の方 すばらしいですね!」やら
「気持ちいい 非常に気持ちのいい対応だ」などと
言われるようになった
嫁は特に容姿がいいわけではないが
太陽のような明るさと
天性のコミュニケーション能力と
ホテルで身に着けた対応や言葉遣い
なによりタバコ屋の看板娘並みの取っつきやすさに
やたら褒めてくれる人間が多くなり
嫁の会社の社長や次期社長やらお偉いさんが
食事に誘ってくれるようになった
しまいには「うちの息子と
見合いしてくれないか」と
見合い話を持ち込む人まで出てきた
嫁が結婚している事を告げると
ガックリ肩を落として帰って行ったそうだ
先日嫁の会社に訪れたとある会社の方が
嫁の受付での対応に感動し
「うちの社員たちを勉強させるために
連れてきたいぐらいだ」と言ってくれたらしい
嫁を今の会社にプッシュしてくれた担当の方が
「私 すごく自慢なんですよ
だって私がニヌファ嫁さんをいいと思って
周りの反対を押し切って
担当の方に紹介したので
皆さんや他社の方が
ニヌファ嫁さんを褒めるたびに
ほら 私見る目があったでしょ
私が 見つけて推薦したのよってね!」
その言葉は本当にうれしかったと嫁が言っていた
自分を選んでくれた人の顔を
つぶしたくないと嫁は話していたからだ
そして彼女は自分の努力で
その恩に答える事が出来た
嫁の自慢話をしたいわけではない
あきらめずに努力し続け
そして認めてくれる人間が現れ
偶然にもチャンスをもらい
その少ないチャンスをものにして
周りから認められるようになった
その人間が自分の嫁であることが誇らしい
努力した事がすべて報われる訳ではないが
自分を認めてくれる人間と
出会うことが出来て
その人間が自分を信じてくれて
そして素晴らしい結果を出すことが出来た
それまでの経緯を見てきた僕には
それは偶然ではなく必然にさえ思えてくる
嫁がその会社で働くようになって
早いもので もう2年が経つ
今日もタバコ屋の看板娘は
受付でニコニコと笑顔で座り
来客を手ぐすね引いて待っている
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