★帰る場所
以前 「人と人」という記事を書いたことがある
僕が働いている介護施設のFさんという男性の記事だ
Fさんは若いころお酒と暴力で
家族に迷惑をかけたらしい
また癌の末期でもあるという内容の記事だ
あれからFさんの状態は悪くなり
物を握れないほど弱ってきた
「まったく だらしねーなー
この始末だよ」とよく僕にこぼした
病院に入院することになったFさんが
自分の部屋を出ていく時
「もう もどってこれねーな」と言って
出かけるときにいつもかける
サングラスをかけ施設を出ていった
それから1週間ほどだFさんが亡くなったのは
Fさんの奥さんと家族が
Fさんの部屋を片付けに来た
ゴミとして捨ててくれと頼まれた荷物の中に
Fさんが大事に持っていた写真が入っていた
若いころの写真やまだ太っていたFさんと
奥さんが一緒に写っている写真などだった
「Fさんが大事に持ってた写真だよ・・・
Fさん家族にそんなにひどい事したのかな?」
僕はその写真を手にスタッフに言った
Fさんが家族にどれほど迷惑をかけたのか
僕には わからない
僕にはこの施設でのFさんと僕の関係でしか
Fさんのことは語れないが
寂しがり屋だったFさんが
この施設から出ていった時
僕たちスタッフはもう長くないかもと思った
自分の家に居場所がなくなったFさんの
最後の居場所はここだけだったからだ
むろん病気もあったのだが
少なくともここを出ていく直前は
車椅子で普通に僕たちと話をしていた
病院に入院してすぐに
酸素マスクと点滴で絶対安静となった
自分の部屋を出ていったときの
もう戻れないかもと言ったFさんの言葉は
自分の居場所をなくしてしまったFさんの
最後の言葉のように僕には感じられた
クリスマスの日僕は家族と食事をしていた
「あれ?今変な音しなかった?」と言って
リビングのドアを開けると
「今 玄関のドアから赤い服着た人と
犬のしっぽが見えたぞ」と4歳の娘に言った
「パパ 怖い」と娘が泣きそうになったので
「今 パパが見てくるから待ってな!」
そういって別の部屋に隠していたプレゼントを
クリスマスツリーの前に並べると
サンタクロースからの手紙をプレゼントの上に置いた
その手紙には「りみちゃん
とてもおりこうさんだったので
プレゼントをおいていきます
すごくおもかったのでニヌファおにいちゃんに
てつだってもらいました
たいせつにつかってね!」と書いた
亡くなった愛犬のニヌファを手紙に登場させたのは
娘にとってニヌファは兄のようなものだからだ
「うわーサンタクロースだ パパがさっき見たのは
サンタクロースとニヌファおにいちゃんだよ!」
娘が興奮と喜びで目を輝かせながら言った
しばらくして保育園で字を習っている娘が
「おにいちゃんに手紙を書いたよ」と言って
手紙を僕に見せてくれた
「おにいちゃんへ ちからもちだね
りみちゃんはよろこんでいます
またぷれぜんともってきてね」と
習いたてのおかしな字で書いてあった
「テーブルに置いておけば
お兄ちゃんが取りに来るかもよ」と言うと
娘が手紙をテーブルに置いて出ていった
僕はその手紙をニヌファの首輪やリードが
入っている箱の中にそっとしまった
僕には 今家族がいる
一人暮らしの頃とくらべ
家族の待つ家に帰るのはとても嬉しいものだ
人は 自分が思う以上に
自分の居場所が必要だ
自分を待っている人がいる場所が
自分が帰りたいと願う場所が
この1年僕のブログを読んでくれた方々
またコメントをくださった方々
本当にありがとうございます
来年がみなさんにとって
良い年でありますように
心から願っています
また来年お会いしましょう
関連記事