★星の降る島

★ニヌファ

2011年01月19日 09:23


























20~21歳のころ 当時付き合っていた彼女と

沖縄の慶良間諸島の阿嘉島に遊びに行った

泊港から船で1~2時間だったと思う

今はわからないが当時は

島民の数より牛や馬の数のほうが多そうだった

そこで500円か1000円でテントを借り

自分たちでテントを張って二泊の予定だった

浜辺から手ごろな石を拾い重しにした

僕たちのほかにも何組かテントを張っていた

バーベキューのセットも借りられたので

海パン姿で浜辺でバーベキューをした

阿嘉島の美しい海を眺めながら

食べる食事は最高だった

沖縄で生まれ 子供のころから

死ぬほど海を眺めてきたが

それでも海を見るたびに 僕は美しいと感じる

彼女との話が途切れ ぼんやりと

オリオンビール片手に海を眺めていた

打ち寄せる波の音が まるで子守唄のように

心の中までゆっくりと染みていく

それは僕の鼓動と重なって 目を閉じると

まるで海に抱かれているような気分になる

コーヒーの香りで目を覚ますと

彼女がテスターズチョイスを入れていた

一時間ほど寝てしまっていたようだ

テスターズチョイスは沖縄ではメジャーな

昔からあるインスタントコーヒーのブランドだ

「ぐっすりだったよ!」そう言って彼女が

コーヒーのカップを手渡してくれた

「気持ち良くて つい寝ちゃったよ」

僕はカップを受け取ると 頭をかきながら答えた

何もしない 何も考えない 予定もない一日

時が止まったかのような島で

ただ海を眺めて過ごすこの時間の贅沢さ

日常のストレスから解き放たれ 

心がクリアーになっていくのを感じる

海でしばらく泳いだ後 軽いけだるさを感じながら

石垣の塀に囲まれた古い沖縄独特の

民家が並ぶ村の中をぶらぶら散歩した

どこかの家のラジオから 沖縄の民謡が聞こえる

ふわっと髪をなでる風は 花の香りがした

舗装もされていない砂利道をしばらく歩いた

途中 木陰に涼んでいるオバーに会った

挨拶をすると 持っていたヤクルトをくれた

昔から沖縄のオバーは やたらとヤクルトを

愛用しているオバー達が多い

しばらくオバーと話をした後 手を振って別れた

テントのそばには無料のシャワー施設があり

僕たちはそこでシャワーを浴びると

用意していた食品で夕食をとった

他のテントの人達としばらく談笑したあと

僕たちは夜の砂浜に出た

二人で砂浜に腰かけ夜空を眺めた

この島では村の明かりより

星空の明かりのほうが明るく感じる

星空をじっくり見る機会は案外少ない

僕自身にそんな心の余裕がなかったかもしれない

夜空の海に 沢山の星が漂っているように見える

目を閉じると 体の中に星たちが降ってくるようだ

彼女と自分たちの未来について話した

今思えば幼くも淡い夢のような話だったが

その時の僕たちには すべてのような気がした

その晩テントで眠りにつく時

彼女が僕の手をそっと握りしめてきた

僕も彼女の手を握り返した

その後の僕たちにあの夜話した未来はこなかった

彼女とは別れてしまったからだ

辛い思い出や悲しい思い出ではない

懐かしくも 少し切ない思い出だ

それは あの星の降る島の

砂浜に半分埋もれた記憶の貝殻のように

今も夜空を眺め続けている







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