★夏と休日とプールと
元町プールは1930(昭和5)年に出来たらしい
地元横浜っ子も知らない人が多い
20代の頃に教えてもらい
それから気に入って通っている
にぎわっている元町商店街の裏道から
なだらかな坂を上って行くと
周りを木々に囲まれた元町プールがある
古臭く 時代に取り残されたようなプールだ
プールサイドの周りは階段状の段々になっていて
プールサイドはカンカン照りだが
階段状の部分は周りを木に囲まれているおかげで
日陰になっていて そこで読書をしている人もいる
湧水を使っているらしく 水がやけに冷たいが
暑い夏の日には丁度いい
仕事を聞きたくなるような個性的な人や
外国人や老人から子供までと幅広い層の人が来る
子供ばかりでうるさいプールは
落ち着かなくて好きではないが
元町プールは程よく 落ち着いた雰囲気がする
プールといえば 以前
スポーツクラブでイントラをしていた時
朝のプールの掃除を終えた後
プールに飛び込み 底まで沈むと
プールの底から水面を眺めるのが好きだった
静寂の中 水面から差し込んだ日の光が
七色に輝きながら オーロラのようにゆらめいている
別世界の入口に立っている
そんな錯覚に陥り 水中にいる事を忘れ
長い時間沈んでいたりした
スタッフに「水死体かと思いました」と
よく冗談で言われたものだ
元町プールでは嫁とよく日焼けをした
女性は美白至上主義のような風潮があるが
僕は それを信じていない
化粧品会社の洗脳だとすら思っている(笑)
僕は 健康的な小麦色の肌が好きだ
バカみたいに日焼けしすぎるのもどうかと思うが
ハワイに行った時 現地の年配の女性は
日焼けしていたが魅力的だった
日焼けが 肌に色々な影響を与えるのも知っている
だが 色白だが魅力的でない女性もいれば
僕の知っている60代の女性は
テニスをしていて真っ黒で
女優なみに美しい人がいる
元スチュワーデらしいのだが
テニスの大会に出場しては優勝したりしている
早い話 肌の色の問題ではないということだ
多少 肌にシミがあろうがなかろうが
魅力のある人間はあるし ない人間はないのだ
色白にこだわり ドラキュラのように
日の光に過敏にならなくともいいと思う
先日 久しぶりに元町プールに娘と行った
昔 通っていた頃は まさか自分が
子供を連れてくるとは夢にも思わなかった
レジャーシートを敷き 来る途中に
100円ショップで買った子供用の浮き輪を出すと
娘が「うゎー!」と嬉しそうに言った
サーフパンツにビキニのブラを着た娘が
プールではしゃぐ姿が 僕にはまぶしかった
生命力に満ち溢れ 感情がほとばしっている
浮き輪につかまり 波に揺られながら
「パパ 楽しいね」と娘が笑顔で言った
それはまるで プールの上に広がる
真夏の青空を背景にしたポートレートのようだった
彼女の小さな手が僕の手を握りしめている
一瞬だが 永遠にも感じられる時間
遠い昔の 夏の記憶のページに挟まれた
モノクロの写真のように
見るたび懐かしくも せつなく愛おしい
これからずっと この瞬間を思い出す時
僕はそんな風に感じるだろう
「パパ またプール行こうね!」
元町プールからの帰り道 娘が言った
「また 行こうな」僕は日焼けした額に
良く冷えたサイダーの瓶を押しつけながら
笑顔で 娘にそう答えた
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