★心のかけら
1965年5月28日に僕は生まれた
沖縄の宮古島から少し離れた島だった
僕は小学生までそこで暮らし
中学校から宮古島に引っ越した
今の子供たちのように 物に溢れた暮らしではなかった
どちらかと言うと ない物のほうが多かった
コンビニも携帯電話もなく
便利という言葉とは程遠い時代だ
毎日 海や山で走り回り
遊びも自分達で工夫して遊んだ
信じられないだろうが 楽しい時代だった
小学6年生の頃だ 友達5人と
テレビ塔かアンテナ塔なのかよく知らないが
サトウキビ畑の中に立つ塔まで遊びに行った
テレビ塔まで行ったからといって何が面白いのか
今ならありえない話だが 子供の好奇心のみで
みんなでワイワイいいながら向かった
喉が渇くと サトウキビ畑からサトウキビを
勝手に折って かじりながら歩いた
テレビ塔は 入口を鎖でふさがれただけで
入るのは容易かった
僕達は はしごのような急な階段を
頂上めざして登り始めた
テレビ塔の高さは よくは覚えていないのだが
15~20階くらいの高さだったろうか
とにかく子供の僕らの足がすくむほど高かった
みな怖かったと思うのだが
臆病者だと言われたくなくて
誰一人 やめようとは言いださなかった
頂上には円状の場所があり そこが唯一の
階段から降りられる場所だった
それなりに広かったのだが
5センチほどの間隔で鉄板が張ってあって
その隙間から 下が見えるのだ
最初は怖かったのだが しばらくそこにいると
結構 慣れてしまった
その塔からの眺めは素晴らしかった
周りに広がるサトウキビ畑やその先の海や
周りの島までも見る事が出来た
5人で鉄柵の間から足をぶらぶらさせながら座り
風に吹かれ 遠くを眺めた
ちっぽけな島だったが 僕達の世界全てだった
小学校を卒業したら宮古島に引っ越す事を
僕は 友人達に告げた
みな驚き 残念がってくれた
話が途切れ しばらく黙っていたが
「お前の所に 必ず遊びに行くから」と
友人達が そう言って励ましてくれた
僕が 照れ笑いをしていると
強い風に 僕が履いていたゾーリの片方が
吹き飛ばされ サトウキビ畑の海の中に消えていった
降りたら すぐに探せるだろうと思っていたが
見つける事が出来ず 僕は片足はだしのまま
みんなと 歩いて帰った
それから 僕は宮古島に引っ越した
友人達も しばらくは遊びに来てくれたが
だんだん会わなくなってしまった
その友人達の一人と 同じ高校で再開するのだが(笑)
あの日の強い日差しと 風と テレビ塔と
サトウキビの青臭い甘さを 今でも覚えている
そして あの塔の上から飛ばされた僕のゾーリは
どこに行ってしまったのかと思う事がある
あれは今でもサトウキビ畑の中に
ポツンと落ちているのだろうか
それともあのゾーリは
大人になっていく僕が 失くしてしまった
少年の心の かけらなのだろうか
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