★ 宝物

★ニヌファ

2010年03月12日 09:09


























以前 スポーツクラブでインストラクターをしていた


僕はマシンジムのチーフインストラクターだった



スタッフの出身校の体育系の学校から



生徒を2週間ほど実習生として



面倒見てくれないかと頼まれた



どのスポーツクラブでもよくある事だが



そのスポーツクラブに入社した



社員でもバイトでもない彼らは



忙しい現場では 正直邪魔者になってしまう



それは どのスポーツクラブでも同じだろう



ただ 初めて社会に出る若い子を



邪魔者として迎えるのは忍びなかった



社員やバイトの子達に話をして



できるだけ面倒を見てやろうという事になった



実習生は 男性と女性の2人だった



教科書では分からないトレーニングの基礎を教えたり



新人が入った時にするように



ヘトヘトになるまでトレーニングをさせ



どのマシンがどこに効くのか身を持って教えたり



メニューの作り方や フロントに立たせたり



インストラクターとしての会員さんとの



トークも実践で 叩き込んだ



エアロバイクをこいでいる会員さんを指さし



「あの人の今日の夕飯聞いてきて」と言うのだ



初めて話をする会員さんに 



唐突に「今日の夕飯はなんですか?」と聞くバカはいない



よほど話こまないと そこまで聞く事は出来ない



それこそが狙いなのだ



インストラクターは運動の話をしていればいいなんて



思ってほしくなかったし 



そんなインストラクターはなんの魅力も無いと思う



運動以外の話をするからこそ 



信頼関係や なにより



その人の生活パターンが見えてくる



それを考慮してメニューを考えられるからだ



初めての経験で 彼らも大変だったと思うが



なにか一つでも得るものがあればと



そんな風に思ったのだ



実習の最終日 スタッフの一人が



「ニヌファさんが 今プールで監視してるんで



今日までのお礼を言ってきなさい」と言って



プールにいる僕の所に挨拶するように仕向けた



プールに挨拶にきた実習生の2人を



隠れていたスタッフとともに



プールの中に叩き込んだ(笑)



実習生はプールの中で



何事かと茫然としていたが



プールに集まったスタッフが拍手をしながら



「お疲れさん!」と笑いながら声をかけたので



ようやく事態が呑み込めたようだった



僕らなりの 荒っぽい最後の祝福だった



びしょ濡れの実習生の子が



泣き笑いで「ありがとうございました」と言ってくれた



それから何日かして 実習生の子から手紙をもらった



他のスポーツクラブで実習をした同級生の子達は



一日中 掃除をさせられて終わった事



それに比べて 自分達は



たくさんの事を教えてもらった



本当に ありがたかったと書かれていた



こんなにも会員さんとスタッフの関係が



密接なクラブは見た事がないとも



そして 手紙の最後には



「私は ニヌファさんのようなインストラクターに



なるのが夢です」と書いあった



その言葉は僕の一生の宝物となった



恥ずかしながら 実習生の子からもらった手紙は



今でも 大事にもっている



その後 そのスポーツクラブは



オーナーの多角経営が失敗し倒産した



スポーツクラブ最後の日



会員さんが集まってくれて



僕達に 拍手をしてくれた



スタッフ全員ボロ泣きだった



それから 僕はインストラクターの仕事を



二度とすることはなかった



手紙をくれた実習生の子が



今インストラクターをしているかどうかは



たいした問題ではない



ただあの時 あの瞬間に関わりあえた事



そして 彼らが僕達を見て



インストラクターになりたいと思ってくれた事



それこそが 僕の人生の宝物の一つだ

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