★すれ違いの出会い
宮城君と出会ったのは
僕がスポーツクラブでインストラクターをしていた頃だ
フロントから「オリエンテーションを2人お願いします」と
言われ ほどなくやって来たのが宮城君だった
話しを始めると なんだか日本語がたどたどしい
出身をたずねると ペルーだと答えた
それにしても たどたどしい日本語のイントネーションが
なんだか 懐かしい感じがしたので
さらに訊ねてみると 両親が沖縄人だという事が発覚した
「僕も ウチナンチューですよ」と言うと
「本当でしゅか?」とおかしな言葉とともに
宮城君の目がパッと輝いた
ペルー名の名前は難しくて覚えていないが
彼の印象は 30年くらい前の人間のような感じだった
素朴で優しくて なんだか昔会ったことがあるような
懐かしい記憶を思いおこしてしまいそうな感じになるのだ
彼の目は 僕と同じ沖縄人の目そのものだった
彼の両親が ペルーに渡った日はいつか知らないが
何十年も前に沖縄の人間が外国に行き
何十年前の沖縄人のままに暮らし
それを息子の宮城君が受け継いだのだろう
それからスポーツクラブのオーナーが多角経営に失敗し
順調だったクラブも閉鎖する事になり
僕は違う仕事を始め 彼と会う機会はなくなった
ところが2~3年に一度
偶然街で車ですれ違いざまに会うのだ
「ニヌファしゃ~ん」とおかしなアクセントで叫び
手をふって去って行く
そんな すれ違いの出会いが4~5回ほどあった
何カ月か前に嫁とベビーカーを押して歩いていると
突然車が目の前に止まり 彼が笑いながら降りてきた
スポーツクラブが閉鎖してから 初めて話をしたのだ
彼が日本人と結婚したことや 彼の仕事の事など
そしてお互いの携帯の番号を交換して別れた
スポーツクラブで初めて出会ってから
10年以上もたっていた
つい最近も 嫁と歩いていると後のほうから
「ニヌファしゃ~ん!!」と叫びながら
ハアハア息を切らせて走って来た
車で家に帰る途中に 僕らを見かけて
最近 沖縄に帰ったので お土産を渡そうと思い
急いで家に帰ると お土産を手に
走って追っかけてきてくれたのだ
「歩くの 早いね~」と息を切らせながら彼が言った
手には沖縄土産の スパムの缶詰が4個入った
クシャクシャのビニール袋を握っていた
たとえば沖縄人に「あなたの家に
ポークハムがありますか?」と
もしもあなたが尋ねたら 愚問だと嘲笑されるだろう
我が家も 昔で言うところの富山の薬箱並みに
もれなく スパムはストックしてある
「NO PORKHAM NO LIFE」だ
それでも 額に汗して一生懸命追いかけてきてくれた
彼の気持ちが うれしかった
そういうところが 宮城君なのだ
たいした出来事に 思われないかもしれないが
でも 普段そんなアナログな優しさに僕は出会わない
なんだか 久しぶりにいい気持ちになれた
出会いとは 不思議なものだ
同じ沖縄人であるという事だけで
10年に4~5回しか出会わず しかもすれ違いの一瞬だ
一度も飲みに言った事もなく
ましてや電話で話した事もない
なのに彼は僕を忘れず 声をかけてくれる
いい歳をして いつもこういう出会いや出来事に
あらためて 人の出会いの大切さを教えられる
どんなに時代が変わろうと
どんなにデジタルな世の中になろうと
大切なことは変わらないし 変わってはいけないと思う
今度 宮城君に電話して彼の嫁さんと一緒に
飲みたいと思っている
だって僕たちは 10年来の友人だからだ(笑)
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