★山手のぴんから兄弟
以前 ビル管理の仕事をしていた
アパートの共用スペース(階段や入口 廊下など)を
清掃するというのも仕事の一つだった
横浜は山手に○○ハイムというアパートがあった
その日もアパートの廊下を掃除していると
物音を聞きつけて住人が出てきた
歳の頃は 60~70歳くらいだろうか
昔の水商売の人がよく着る
派手なシャツを着たジーさんが出てきた
ポマードでオールバックにびっちし 頭をかためていた
「おう! にいちゃん掃除か?ご苦労さん!」
と声をかけてきた
ぴんから兄弟そっくりのジーさんだった
若い方には ぴんから兄弟といっても分からないだろうが
むかしそんな演歌歌手がいたのだが
だいたい「ぴんから」自体どうゆう意味なのか
僕自身も さっぱりわからない・・・
ただ確実に言えるのは
うさんくさい度300%だという事だ
それから たびたび掃除に行くたびに出てきては
立ち話をするようになった
「最近 となりの奴がよー 入口にゴミ置きやがって
汚ねーんだよ 何度も言ってんのによー
今度 会ったら ぶっ殺してやるからよー」やら
一階の奥に住んでる インド人が帰ってきたとき
「インドのにーちゃん カレー好きか?
日本のカレーもうまいぞ! これもってけよ」と言って
レトルトのククレカレーを渡しているのを目撃したりした
ある時 ぴんから兄弟が お出かけの時に出くわした
サーモンピンクのダブルのスーツに 派手なシャツ
キャノーラ油を シャワー代りにかぶったかのような
ギトギトしたオールバックに
なんかどっかで嗅いだ事があるのだが
いまいち どこで嗅いだのか思い出せない
芳香剤のような香水の香りがした
「おっ 兄貴 お出かけですか?」と声をかけると
「おう ちょいと 野暮用でよ!」と言って
後ろもふりむかず 片手をあげると
肩を揺らせながら 去って行った
絶滅危惧種の天然記念物のような
昭和レトロな ジーさんが
なんだか 愛すべき人間のような気がしてくる
おかしなスゥイングで肩を揺らせ
去っていく後姿を眺めながら
僕はホウキを片手に そう思わずにはいられなかった
あるとき 廊下を掃除していると
若いアメリカ人の宣教師が2人
ぴんから兄弟の部屋のチャイムを鳴らした
「あーぁ あの二人 どんな奴が住んでいるのかも
知らずにやって来ちゃったよ・・・」
いったいどんな大騒ぎになるのかと
ヒヤヒヤして見ていると
ドアが開き ぴんから兄弟が出てくると
「おう よく来たな~ 道迷わなかったかー
入れ 入れ!」と言って二人を招き入れた
演歌が流れる 部屋の中に入っていく
アメリカ人の宣教師達を 呆然と眺めながら
ぴんから兄弟と宣教師の接点が
いったいどこにあったのか?
また ぴんから兄弟と宣教師の組み合わせという
まったく 異素材な組み合わせに
ホステスと忍者 いや 用心棒と未亡人か?
それとも ガリガリ君とウエストポーチだろうか?
などと遠い世界に行ってしまいそうな
考えに襲われつつも
ぴんから兄弟のミステリアスな暮らしに
昭和あなどるべからずと
思い知らされるのであった。
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