2013年03月30日

★別れ

parting




彼女が僕の働く施設に来たのは二年前の事だ


学校を卒業したばかりでまだ初々しく


「大島です(仮名)よろしくお願いします!」


と可愛い笑顔で挨拶をしてくれた


真面目で明るく入居者にもかわいがられた


夜勤も何回か出来るようになったある日


僕が早番で来ると入居者の女性が


夜、居室の中で転倒し怪我をしたと


彼女は動揺し泣き出した


介護施設での夜勤は一人で20人ほどの


入居者の世話をする大変な仕事だ


夜は何が起こるかわからない


肉体的に精神的にもつらいものだ


ナースの女性が「ニヌファちゃん


新しく入ったあの子使えないの?」と聞いてきた


「そんなことはないですよ なぜですか?」


僕がそう答えると事故が起きた時


一階にいる先輩の女性に彼女が助けを求めたのだが


その女性職員がナースにそう告げたらしいのだ


正直 僕は腹が立った


新人の子が不安の中で夜勤を頑張っているのに


先輩である職員がカバーするどころか


役立たず呼ばわりした事にだ


先輩ならば私がいたのにすみませんと


新人の子をカバーすべきだ


大島さんは夜勤明けで帰って行ったが


それから精神的にまいってしまい


会社に来れなくなってしまった


そして会社を辞めたいと言ってきた


大島さんの所属する二階の僕たちは


心配し彼女に何度も電話した


この仕事が嫌いになったのなら仕方がない


そうでなければしばらく休んでから


来れるようになったらくればいいと話した


しばらく休んだ後に彼女は会社に復帰してくれた


夜勤は精神的に難しいため昼間だけの仕事となった


それでも彼女は頑張ってくれた


ナースの中には意地の悪いナースもいて


新人の子をいびるナースもいた


大島さんも何度かやられたが


僕は彼女に声をかけたりメールや電話をした


頑張っている彼女を守りたかったのだ


それから二年がたった


仕事で僕が忘れてしまった事や


これからやろうとしていることも


彼女は気をまわしてやってくれていた


新人の子にも的確な指示をして


現場の把握もすばらしく


先輩の僕から見ても頼りになる職員になった


ただ 何事もなく彼女が来たわけではない


彼女は抗鬱剤を飲み続けながら働いていた


仕事中に具合が悪くなり動けなくなることもあった


吐き気や頭痛も多く体調の悪い日も多かった


僕は照れくさく過度の心配したような


態度を彼女に見せなかったが


正直心配でならなかった


そして彼女が新人でこの会社に入ってきて


あの夜勤で精神的に追い詰めてしまい


薬を飲み続ける結果になってしまった事に


先輩として責任を感じていた


確かに他の職員やナースが彼女にひどいことをした


だから僕は関係ないとでも?


それは違う 僕がもっとしっかりして


彼女の事を守ってやるべきだった


事故は誰が夜勤をしていようと起きるものだ


ただ事故が起きた直後の彼女への


僕達のフォローとその後の対応が甘かったのだ


僕は先輩として彼女を教えてきたし


彼女とともに働いてきた


僕が彼女の事にもっと気を配って


もっと助けてやるべきだった


感傷的になって言っているのではない


一人の若い子が会社に入社し


そんな状態にまで追い詰められてしまった事


また僕にも子供がいる 


自分の子供が会社でそんな状態になったら


僕は会社に怒鳴り込むだろう


若い女の子をそこまで追い詰めて


抗鬱剤まで飲むようになってしまった事


そんなことはけっして許されない


大島さんには新潟に彼氏がいた


その彼氏と結婚することになり


会社を辞め新潟に行くことになった


みんなとても残念がったが


彼女の幸せの旅立ちを心から祝福した


会社での最後の日 三時のおやつ時に


入居者のみんなに辞める事を彼女が告げた


入居者も涙を流し寂しくなると言った


入居者への挨拶が終わり


ステーションに戻ると


「今までお世話になりました」と


大島さんが僕に挨拶してくれた


二人とも胸がいっぱいになってしまい


大泣きしてしまった


そして彼女から手紙をもらった


その手紙には今までのお礼とともに


「ニヌファさんは 私のお兄ちゃんであり


お父さんであり おじさんでした」と書いてあった


おじいちゃんと書いていなかった事は救いだった(笑)


本当にうれしかった 僕は彼女の事が大好きで


本当に妹のように思っていたからだ


心を病んでしまっても頑張って働き


自分が辛くとも入居者に笑顔を見せる


そんな彼女は僕なんかよりも


ずっと素晴らしい介護士だ


僕が言えた義理ではないが


彼女の彼氏がもしも彼女を幸せにしなかったら


新潟に行き彼をぶっとばすつもりだ


彼女の新しいスタートとこれからの生活が


幸せなものになって欲しいと願っている


会社のパソコンで入居者のその日の状態を


ケース項目に打ち込んでいるとき


以前に彼女の名前で打ち込まれた


ケース内容が目に入った


僕はパソコンを打ち込む手を止めた


なんだか とても寂しくなってしまった















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Posted by ★ニヌファ at 09:28│Comments(0)★日々の雑談
 
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